松前漬  蝦夷松前 龍野屋

「松前漬は、松前藩が発祥の郷土料理で、昔、このあたりの家ではあたりまえに作っていた保存食なんですよ。寒い冬をいかに越すかという先人の知恵から生まれたものさ」と龍野屋のご主人、龍野隆さんはそう言います。今でこそ、さまざまな松前漬が市販されていますが、伝来の松前漬は、その材料に数の子、スルメ、昆布などを使い、調味料として塩もしくは醤油を使った発酵食であったという伝えがあります。龍野屋の松前漬は、おそらくそれに近い味? おそらくとは、古来の松前漬というものを食べたことがないからなのですが…そう感じさせる“味わい”があるのです。

松前漬 パッケージ

「松前漬は、基本的にはスルメと昆布の醤油漬け。つまりこの材料しだいで味が決まる。その、素材の持ち味をどれだけ活かすか、発酵でさらにさらにうまみを促すにはどうすればいいか、それだけなんですよ。そのためには“目利き”が必要。素材を見る目と発酵の知識。たとえば、いかの旬はさ、夏じゃなく秋ですよ。つまり今。まずは、旬のものを使うわけよ。いかはさ、沖から揚がってから、いつがおいしいと思う? 採りたてというのは、たしかにこりこりした食感はあるけど、うまみというのはないのね。こりっとした食感も残っていて熟成されたうまみもあるという状態がいいのよ。厳密に言うと、揚がってから半日経ったもの、それを天日干しするのがいいの。今日のような秋晴れは干すには絶好で、山背(北西の風)があると、さらにいかをおいしくしてくれるの。干し終えてからもね、干物だからと言って常温にしておくのはたいへんな間違い。だまっておいても発酵してしまうんですよ。黒くなってガチガチになってしまう。保存するならば、いちばんいい状態は冷凍の一歩手前の氷温、マイナス12度くらい。昆布も同じ。そのままだとダメね。10度くらいの冷暗室がいい。材料それぞれで、みな違うの。時間が経つと昆布もスルメも白くなってくるでしょ。あれがうまみよ。白くなってうまみが上がってくるというのはおいしい状態であるということだけど、表面に上がってきたということは、中のうまみが抜けてしまったということでもあるんですよ。それぞれに生きているものだから、そういう見極めが必要。自然のものを相手にしているんだから」

手当て
龍野さんとの話は、最近、大手の食品工業が松前漬のタレを売り出しているということや減塩の風潮にも及びました。
飾り

龍野屋の商品「松前漬」は、本質を損なうことなく現代人の味覚にアレンジし、スルメと昆布以外に、数の子を少し入れ、やはり少しの砂糖と調味料を使い味付けされています。ご主人の言うように、たしかに口に合い、うまみある松前漬に仕上がっています。

そして、もう一品ある「特製松前漬」のほうは、スルメと昆布、醤油だけを使った、伝来の味付けで仕上げたもの。この“特製”は、減塩に慣れた舌には一口めが塩辛く感じるのですが、醤油との発酵の妙味が相まって、じつに味わい深いもの。他では味わうことのない「松前漬」だったのです。

龍野屋の松前漬は、漬けてから冷蔵庫で
店を訪ねた時、ちょうどお客様に
味のわからない人には売りたくない
さくらの里

蝦夷松前 龍野屋 | 松前郡松前町字福山74 | 01394-2-3800 | http://www.tatunoya.com

(取材・文/山本直美)